王子には4年弱住んだ。その前は久我山に3年いて、さらにその前は小金井に5年ほどいた。そんなこんなで僕の東京生活ももう12年になる。
小金井時代は初めての東京ということもあるし、何より自分が若くて何も知らないので町を評価するという考え自体に思い至らなかった。久我山への引越しは妹と同居して生活の基本コストを減らすのが目的のはずだったが、なんか間違えてそれなりの家賃の部屋に住んでしまい、結局あまりコストは下がらなかった。町自体は至極こじんまりと落ち着いた感じだった印象があるが、もはや細かい点については記憶にない。吉祥寺や西荻まで自転車で出られたのは非常にうれしいポイントだった。
そのころまでは「3流大学生→中退→ミュージシャン志望のフリーター」という、こうやって書いてみると結構救いようのない感じの流れを掴んでいたのだが、とはいえインディーズでCD出したり数多くのライブサポートなどそれなりにはがんばっていたりした。その後いろいろ思うところあり、出会いがあり、ご縁があり、転職というか就職というかで今の会社に拾ってもらうことになる。
その後しばらくして結婚したりすることになり、さまざまな事情から東京の北東部に引っ越すことが求められた。僕はそれまでずっと西側に住み、西側を生活圏としていたために北東部にはまったく土地勘がなかった。当然親しみもあるとかないとかではなく、親しみという評価軸そのものが存在しない状態だったわけだ。
引越し先の検討のために訪れた王子という町の印象はは残念ながらあまり良くなかった。そしてそれは今日まで根本的に変わることはなかった。
王子が一番しっくり来なかったのは「地元感」が薄いことだった。自分にとっての「地元感」ではない。町全体に漂う「非地元感」だ。もちろんこれは僕が勝手に感じていたものなので他の人にとってはぜんぜんそんなことはないのかもしれない。しかし僕はなんだか町が地に足付いていない感じがずっと拭えなかった。全部の建物が地面からちょっと浮いていて、繋ぎ留めているロープを切ったらどっかに飛んでいってしまいそうな感じがしていた。生活や文化が根付いていない感じとか、そこにあるものがそこにある必然性の希薄さとか、一言で言うと歴史がない感じ。もちろん本当に歴史がないわけはないんだろうけど、そこから現代の今ある形につながってない感じがする。どこかで流れがぷつんと切れて、ある日どこかから今ある町をもってきて地面に貼り付けたみたいな感じがするのだ。
王子に限らず北東部の雰囲気はなぜかしっくりこない感じがする。理由は良くわからないし、今やそれを求めるのもあまり益のあることでもないので考えることはしないでおく。そして紆余曲折を経て離婚に至り、その後の困窮状態を経た後、やっとのことで何とかギリギリの引越し資金を貯め、引越し先を見つけ、そしてとうとう引っ越すことと相成った。
これまでの引越しは自分以外の人の都合や要望が入っていたり、そもそも選択という概念がない状態で行ってきた。しかし今回は違う。どこに住もうが僕の自由だし、どこに住むかは僕の責任において選択されるのだ。